インプラントQ&A

1. インプラントとは何か

インプラント(implant)とは、体内に埋め込まれる医療器具の総称です。
失われた歯根に代えて顎骨に埋め込む人工歯根(デンタルインプラント)、骨折・リウマチ等の治療で骨を固定するためのボルトなどがあります。
(Wikipedia 参照)

2. 歯科インプラント治療の歴史について

ヨーロッパでは上顎に鉄製のインプラントが埋まっている紀元3世紀頃のローマ時代の人骨が発見されています。また、中南米では下顎に貝で作られたインプラントが埋まっている紀元7世紀頃の人骨が発見されています。このように、インプラントの歴史はとても古いのですが、確実な治療法になったのは比較的最近です。
1952年(昭和27年)スウェーデンのブローネマルク教授がウサギで骨髄の血液循環を調べる実験をしていました。
ある日の実験が終わって、骨に埋め込んだ金属製の生体顕微鏡を外そうとしたところ、その日に限って骨から外れませんでした。いつもと違う金属、チタン製の生体顕微鏡を使っていたのです。
これにより、チタン製の生体顕微鏡と骨が緊密に接していることが偶然発見されました。ブローネマルク教授はこのチタンと骨が結合している状態を「オッセオインテグレーション」と名付けました。その後、ブローネマルクは信頼できる科学者、技術者と共に13年間に及ぶ基礎研究、動物実験を行いました。そして集めたデータから、チタンがある条件のもとでは生体において異物とみなされずにオッセオインテグレーションすることを利用し、1965年にスクリュー形状のチタン製インプラントの臨床応用が開始されました。骨と結合するインプラントの登場によって、インプラントの臨床成績は著しく向上しました。このように骨と結合するインプラントの臨床結果が優れていることが世界的に知られるようになったのは、1980年代になってからです。

その後、インプラントには様々な改良が加えられ、現在では臨床成績がさらに向上しています。

3. インプラント治療とはどのような治療か

う蝕(むし歯)や歯周病(歯槽膿漏)によって、また外傷によって歯を失うことがあります。また人によっては先天的に歯が無い場合があります。そのような歯が無い部位の顎の骨にインプラントを埋め、そのインプラントに人工の歯を取り付ける治療方法がインプラント治療です。インプラント治療は1本の歯がなくなった場合から全部の歯がなくなった場合まで、適用できる治療方法です。

4. インプラント治療以外の選択肢はありますか?

歯を失った場合の治療法としては、大きく分けて、固定式のブリッジによる治療、取り外し式の入れ歯による治療とインプラント治療があります。
その他には、歯が無い部位に口の中の他の歯を移植する歯の移植による治療を行うこともあります。
それぞれの治療法には利点と欠点がありますので、歯科医師の説明を良く聞いて、不明な点については遠慮されずに質問されることをおすすめします。

5.インプラントの材料って何ですか?

咬合力に耐えられる強度があり、生体親和性が高く、骨と結合することから、現在インプラント材料としては、主にチタンあるいはチタン合金が使用されています。インプラントと骨との結合を促進する目的で、インプラント表面を様々に改変したインプラントが多く用いられています。インプラント表面の処理は、ブラスト処理・酸処理・酸化処理・機械研磨処理の4つに大別され、多くの場合はこれらを組み合わせています。また、インプラント体の表面にハイドロキシアパタイトをコーティングしたものもあります。

6.インプラントの構造とそれによる違いについて

骨の中に埋める部分をインプラント体、インプラント体と人工の歯の間の部品をアバットメントと呼びます。一般的にアバットメントはスクリューでインプラント体に固定されています。 アバットメントの上に人工の歯が付きますが、それがインプラント体に直接付く場合もあります。

また、人工の歯が外れないように、セメントを用いて付ける場合と、スクリューで人工の歯をアバットメントあるいはインプラント体に付ける場合があります。セメントあるいはスクリューで人工の歯を付けた場合、患者さん自身でそれを外すことは不可能です。 一方、インプラント体の上に特殊な装置(アタッチメント)を付けて、義歯(入れ歯)の内面にもそれと接続可能な装置を付けることで義歯を安定させると同時に、患者さん自身が義歯を取り外すことが可能な治療法があります。このようなインプラントを用いて取り外し可能な義歯を安定させる治療法を、インプラントオーバーデンチャー(implant-supported overdenture)による治療法と呼びます。

インプラント体にアバットメントを接続するインプラントはツーピースインプラント(two-piece implant)、インプラント体とアバットメント部分が一体となっているインプラントはワンピースインプラント(one-piece implant)と呼ばれます。

ワンピースインプラントは構造上、外冠の装着はセメント方式しかできず、残存歯の状況変化への対応が困難です。ツーピースインプラントの方が自由度が高く、精密で審美的なインプラントを作ることができるため、多く普及しています。

7.インプラントのメーカーによる違いはありますか?

インプラントメーカーは世界中にたくさんあり、150社以上あるとも言われており、国内で販売認可がおりているインプラントメーカーも30社以上と言われています。販売認可がおりている以上、ある程度の品質は保証されていますが、重要な事は、そのメーカーが将来にわたって存在し続けるかどうかです。

使用したインプラントメーカーが倒産してしまうと部品の供給がなくなり、修理などにも対応が出来なくなるので、最悪の場合、インプラント治療を最初からやり直しなどという可能性もあります。

多くの歯科医師が使用している、信頼度の高いメーカーには海外のメーカーではノーベルバイオケア社、ストローマン社、アストラテック社などがあり、国内メーカーでは京セラ、GCなどがあります。

8.インプラント治療は誰でも受けることができるのでしょうか?

他の歯科治療と異なり手術を伴う治療であると同時に、治療終了後も十分なケアが必要です。 高血圧症や心臓疾患等の循環器系疾患、喘息等の呼吸器系疾患、糖尿病や骨粗鬆症等の疾患、腎臓や肝臓の機能障害がある場合には注意が必要です。 また、現在服用されている薬によっては、インプラント治療が適さないこともあります。 インプラント治療を担当する歯科医師から、全身状態や服薬状態について聞かれた場合には、正確に答えてください。インプラント埋入予定部位に十分な骨が存在しない場合には、インプラント治療を行うことが困難です。 インプラント埋入手術の前、あるいは埋入手術と同時に骨を造るための手術を行うことで、インプラント治療を実施することは可能ですが、患者さんの負担が増加します。さらに、歯周病に罹患している患者さんや喫煙される患者さんにおいては、治療後のインプラントの残存率(寿命)が低いことが知られています。歯周病に罹患している場合は歯周病の治療を優先して行い、喫煙されている場合は減煙あるいは禁煙してから、インプラント治療を受けられることをおすすめします。

9.インプラント治療の費用はどれくらいかかりますか?

近年、外傷や腫瘍等の病気で顎骨を失った場合や、その部位に骨移植をおこなって再建した場合、先天的に歯や顎骨を欠損している場合などに限って、インプラント治療に健康保険が適用されることになりましたが、通常のインプラント治療には健康保険が適用されません。全額患者さん負担の自費診療となりますので、治療費は インプラント以外の治療法よりも高額になることが多いです。1回の治療で用いるインプラントの本数、人工歯の材質やインプラントメーカーの違いなどで異なりますが、インプラントとその上の人工歯を含めて通常は1本あたり30万円から60万円くらいかかります。

30万円よりも著しく安い、あるいは60万円より著しく高いインプラント費用を提示されたら、その理由をしっかりと聞いてください。実際に起こった残念な事例としては、1本20万円以下だと説明されてインプラント治療を受けたところ、普通は含まれている仮歯が省略されていたり、手術が終わってから、提示された費用は手術費用のみでインプラントに付ける人工歯は別料金だと告げられたケースが報告されています。また、1本50万円で治療を受けたのに、信頼度が低いメーカーのインプラントを使用され、その結果、修復不能なまでに骨が溶けて、やり直すこともできなくなった例もあります。いずれにせよ、治療前の検査、インプラントを埋め込む手術、インプラント上部の装着物を含めて、治療がすべて終了するまでに必要な治療費を、治療内容と照らし合わせてしっかりと確認してから治療を受けるようにしてください。また、治療後に定期的なメインテナンスが必要となりますが、インプラントのメインテナンスも自費治療となりますので、その費用についても確認が必要です。

10.インプラント治療の治療期間について教えてください

インプラント治療において、治療開始から治療終了までの期間(治療期間)は、個々の症例によって異なります。顎の骨にインプラントを埋めてから、インプラントに骨が結合するためには、一定の期間(治癒期間)が必要であり、この期間はインプラントを埋めた部位の骨の状態に大きく影響されます。 現在では標準的な治癒期間は上顎で3ヶ月、1ヶ月半を目安とし、一定の条件を満たせばインプラントを埋めた当日に仮歯を装着できることもありますが、逆により長期の治癒期間を設定しなければいけない場合もあります。インプラントを埋める前の準備に要する期間とインプラントが骨に結合してから人工の歯が完成するまでの期間に治癒期間を加えたものが治療期間となります。

また、インプラント治療部位の骨の造成が必要な場合には、さらに治療期間が延びることになります。 インプラント治療を受ける前には、治療期間についても、しっかりと確認してから治療を受けるようにしてください。

11.インプラント治療の成功率はどれくらいですか?

インプラント治療の成功とは単にインプラント手術の成功を意味するだけでなく、そのインプラントが長期にわたって、良い状態を保てるかどうかが最も重要です。
したがってインプラント治療の成功率は、術者の技能や、インプラント体やアバットメント、かぶせ物のクオリティーだけでなく、患者さん自身の歯みがきの状態や、定期的に検査のために来院されるかどうかによっても変わってきます。

★フィクスチャー712本による293個のインプラント補綴物5年間の安定率は98.7%
Torsten Jemt,DDS,PhD
Int J Oral Maxillofac Implants 1989;4:211-217

★上顎において621本のフィクスチャーによる250個のインプラント補綴物の2~8年の安定率は99%
★下顎において506本のフィクスチャーによる247個のインプラント補綴物の2~8年の安定率は97%
Myron Nevins,DDS
Int J Oral Maxillofac Implants 1993;4:428-432

1989年頃から、世界では早くも高い成功率が報告されています。しかしこれらの多くが同一施設において行われた治療結果の統計であることを忘れてはいけません。高い成功率の報告と同時に以下のような統計も発表されています。

★未熟な外科医によって埋入されたインプラントの失敗は、経験豊富な外科医によって埋入されたものの2倍ほどであり、その差は統計的に有意であった。
Lambert PM, Morris HF, Ochi S. Positive effect of surgical experience with implants on second-stage implant survival. J Oral Maxillofac Surg 1997;55(Suppl 5):12-18


12.インプラントのメリットとデメリットは?

《メリット》

インプラント治療の強みは、義歯をしっかり固定できることです。
インプラント治療では、残っている歯を削ったり、残っている歯に義歯を安定させるための装置を付けたりしません。
残っている歯の負担が少ないことも、インプラント治療の利点です

  • しっかりと強く咬める
  • 自信を持って笑うことができる
  • 左右でバランスよく咬める
  • 取り外す面倒がない(取り外し式の場合もあります)
  • 食物をおいしく味わえる
  • 自分の歯にかかる負担が減って長持ちする
  • 歯ごたえある食物の食感が楽しめる
  • 隣の歯を削る必要がない
  • 発音が安定して会話を楽しめる
  • インプラントはむし歯にならない
  • 見映えよく仕上げることが可能

《デメリット》

インプラント治療には、外科手術が伴うので、全身状態がよくないとうまくいかない、治療期間が長め、治療費が高額といった短所があります。インプラントは骨と強くつきますが、粘膜とはあまり強くつかないため、天然の歯に比べ感染に弱いことも欠点です。さらに、インプラントをしたい場所に骨が十分ないと、治療が難しくなることも欠点です。インプラントが抜けたり大きく壊れたりした時に、修復が難しいこともあります。

  • 噛む感覚が自分の歯とまったく同じではない(義歯よりは優れている)
  • 治療期間が比較的長い(最近は、ケースによっては期間が短縮傾向にある)
  • 状況により見た目が自分の歯と異なることもある
  • 食べ物が詰まりやすくなることがある
  • 他の歯が抜けて義歯を入れる場合、インプラントに不用意にフックをかけるとインプラントにダメージが加わることがあるため、義歯のデザインが制限されることがある
  • 外科処置に伴う痛み・腫れ・出血・合併症の可能性がある
  • お手入れが十分でないと感染することがある(インプラント周囲炎)
  • 治療費が比較的高額で、メインテナンスも自費治療となる

13.治療の前に行う検査にはどのようなものがあるでしょうか?

インプラント治療の失敗の原因として多くの歯科医師が一番に挙げるのは、「術前の検査や診断が不十分で、適切な治療を行うことができなかったこと」です。検査を多くするのが良い歯科医師とは限りませんが、必要な検査を適切に行い、その検査結果から正しい診断を行うことにより、失敗のリスクは軽減されると思います。

  1. 一般的口腔内検査
    お口の中を直接観察して、虫歯や歯周病や咬み合わせの検査をします。
  2. レントゲン検査
    一般的に撮影される歯科用レントゲンで、歯やあごの骨の状態を平面的に確認します。
  3. CT検査
    歯やあごの骨の状態や、神経、血管の走行を3次元的に確認します。
    撮影したCT画像をコンピューターに取り込み、3次元画像処理ソフトでインプラント手術のシミュレーションを行っている歯科医院もあります。
  4. 血液検査
    糖尿病や血液疾患など全身疾患の症状がある方は、インプラント治療が適さないことがあります。
    また、血が止まりにくい方は手術を行うことが困難なので、血液検査でチェックを行います。
  5. 金属アレルギー検査
    インプラントに使用されている金属・チタンは生体親和性が高く、アレルギー反応をおこしにくいですが、
    金属アレルギーが心配な方は、事前にアレルギー検査を受けられることをおすすめします。

その他、問診時に、全身的な病歴、内服中のお薬、喫煙の有無などをお聞きし、必要であれば血圧測定を行います。

14.インプラント治療は痛みや腫れを伴いますか?

インプラント埋入手術の際には、歯を抜いたり歯を削ったりする時に使用する局所麻酔を使用します。また手術時間が長い場合でも、麻酔科医による静脈内鎮静法を用いることで、楽に手術を受けることができます。

したがって、手術中に痛みを感じることはありません。しかし、麻酔効果は一定時間しか持続しませんので、手術後には鎮痛薬(痛み止め)を服用していただきます。術後の痛みは、症例によって異なりますし、痛みの感じ方の個人差もありますが、通常の場合、鎮痛薬を数回服用する程度で、痛みは次第におさまることが多いです。 術後に長期間痛みが継続する場合は、担当医に問い合わせてください。腫れに関してですが、インプラント埋入手術後、通常は、インプラント手術部周辺が腫れます。腫れる程度は手術の状況により異なりますが、次第に腫れは引きますので心配はいりません。

また手術部位に関連して内出血が起きて顔の一部が一時的に紫色になることがあります。このようになった場合にも心配はいりませんが、治療を受けた先生に一度ご相談ください。

15.インプラント治療後の注意点を教えてください

インプラントは骨としっかりと結合しますが、天然歯と比較すると粘膜との結合が弱いため、感染し易い欠点があります。したがって、歯ブラシやその他の器具を用いた患者さん自身による毎日の口腔清掃が極めて重要です。そして、上部構造の不具合やスクリュー部の緩みなどを点検したり、インプラント周囲部の炎症を確認するためにも定期的な経過観察(メインテナンス)が欠かせません。

患者さん自身による口腔清掃が十分でない場合、あるいは定期的なメインテナンスが行われない場合には、問題が起きる可能性が高くなります。

16.治療後にMRIやCTの画像診断への影響はありますか?

チタンあるいはチタン合金のインプラントを用いてインプラント治療を受けた場合、チタンは非磁性金属であるので、MRIによる画像診断に影響を及ぼすことはありません。しかし、インプラントの上部に磁石が付いた構造物が装着されている場合には、MRIの画像が乱れることがあるので注意が必要です。

CTに関してですが、CTを撮影する場合は、金属を外すように指示されます。これは金属アーチファクトという虚像が写ることを防ぐためです。金属にX線を当てて、レントゲン撮影をすると光を乱反射したような像が写ります。これを金属アーチファクトといいますが、これにより本来見たい部分が見えなくなることがあるので金属を外すように言われるのです。ところが、金属すべてにアーチファクトが生じるわけではありません。チタンはX線吸収が少なく、比較的アーチファクトが出にくい金属です。むしろ、お口の中に普通に装着された金属冠のほうが大きなアーチファクトが生じさせます。したがってインプラントが、CTの画像診断に大きな影響を及ぼすことはまずありません。

17.どのようなことに注意して、インプラント治療を受ける歯科医を 選んだらよいのでしょうか?

この質問については様々な見解があり、完全な正解はないと思われますが、患者さんにとって一番気になる問題でもあります。設備や技術が備わっていると言われている大学病院か、優秀な人材が独立した開業医か。単にインプラント治療といっても、実際には様々なケースがあります。比較的簡単な1歯欠損から、骨造成やサイナスリフトのような外科的処置を併用する場合とでは、その選択基準に違いが生じます。やはり、大掛かりな外科手術を伴うような場合には、オペ室などの設備や、麻酔科医などスタッフが充実している病院施設の方が安心感が高いと思います。また簡単と思われるケースでも、インプラント治療は歯科全般的な知識や技術が必要な治療ですので、ある程度以上に治療に熟達した先生の方が良いのではないかと思います。

インプラント治療を受ける歯科医院を選ぶ際には、インプラントの費用が安いか高いかだけで判断しがちですが、その歯科医院でインプラント治療を受けることに対して、自分自身が十分に納得できるかどうかが特に重要です。

そして最も大事な事は、歯科医師との信頼関係です。例えば、知人からの紹介や様々な情報から安心できると思われる歯科医院を決めたなら、一度受診をされ、ご自身の現在の状態、インプラント治療の必要性や治療方針についてしっかりと説明していただけて、信頼できる先生だとご自身が判断できたならば受診するというのが、最も良い方法だと思います。

一般的な判断基準は以下のようなものです。

  1. 清潔感のあるスタッフや歯科医院の環境であること。
  2. 術前検査に基づいて、他の選択肢も含めて、しっかりとした説明をしてもらえる。
  3. 治療計画立案と治療の実行について、十分な能力を持った歯科医師が治療を担当することが確認できる。
  4. 治療終了後も定期的なメンテナンスに通うことができる。

(注:2〜5,10,14は日本口腔インプラント学会HPより引用・改変)

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